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例のネクタイは旭さんの部屋の机の上にあってすぐに見つかった。あとはこれを届けるだけだ。
しかしその前に、ひとつ、クリアしなければならない問題がある。
東京から浜松まで新幹線で片道七千円以上かかるのだ。往復だと一万五千円くらいにもなる。そんな大金は口座にも財布にもなかった。
「うがーっ」
リビングに戻ってあたしは頭を抱える。
「新幹線高すぎ! どこの貴族の乗り物だっつーの!」
「新幹線なんか乗ってどこ行くんだよ」
一番聞きたくない声が聞こえてあたしは飛び上がった。
振り返ると、いつの間に帰ってきたのか、真昼がリビングのドアにもたれて腕組みしていた。日焼けしていない白い指がイラついているように腕でカウントをとっている。
あたしは旭さんのネクタイを握りしめて一歩後ずさる。
「べ、別に、旭さんのネクタイを届けに、浜松まで……」
小さな声で答えると、真昼は首を横に振った。
「新幹線なんか使わなくてもいける」
「え?」
「小学生の頃、応援してたバレー選手の試合に内緒で行こうとしたことがあるんだ。電車なら時間はかかるけど新幹線よりお金がかからないはずだ」
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