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行ったことがない場所に電車で向かう時はいつも緊張する。降りるつもりのない駅の名前は始業式の日に初めて会うクラスメートの自己紹介みたいによそよそしい。
その自己紹介の間隔が少しずつ開いていくにつれて、東京から離れているのがわかって、嫌な感じにドキドキした。
金曜日の昼だからか、電車の中はいつもと比べてすいているように思える。あたしはドアに近い端っこの席に座り、真昼は少し離れたところに立っていた。
お互い知らない人のように振る舞いながら、あたしたちは同じ電車に乗り、同じ駅で乗り換えをした。
浜松駅についたのは薄暗くなってからだった。時計を見たら午後六時半をまわっていた。横殴りとまではいかないものの決して弱くはない雨が降り始めており、駅前を歩く人たちはみんな傘をさしていた。
あたしは市内を循環するバスに乗って旭さんの泊まっているホテルに向かう。旭さんは雑誌のインタビューで不在だったので、フロントの人にネクタイを預けた。
その間も真昼はまるで他人のように振る舞いながらあたしについてきた。
ほんと、何しに来たんだろ。
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