第1ラウンド VS旭

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 駅から少し歩いたところにあったため、ホテルにつく頃には全身ずぶ濡れになっていた。早くお風呂に入りたかったが、あたしにはその前にやっておかなければならないことがあった。  ホテルの入口であたしはピタッと立ち止まる。 「あたし、お父さんに連絡しなきゃいけないから先に行ってて」  あたしはそう言ってスマホを手にとったが、指は動かなかった。  だって、どう言い訳すればいいのだろうか。  この前はクラスメートの家に泊まると言ったが、今回ばかりはそれが通用しない。台風の時にお泊り会なんかして向こうのご家族にも迷惑がかかるだろうとツッコまれてはおしまいだ。  じゃあバイト? いや高校生は真夜中に働けないから嘘だとバレる。  あたしが固まっていると、真昼がわざとらしく深いため息をついた。 「貸せよ」  いいともダメとも言う前に、真昼があたしの手からスマホを抜き取り、電話帳のお父さんのボタンをタップした。発信画面に切り替わる。 「ちょっと、真昼!」
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