123人が本棚に入れています
本棚に追加
そう思ったのも束の間。ホテルに入ると、真昼はすでにチェックインをすませており、あたしのことを置いてけぼりにしてさっさと部屋に向かってしまったらしかった。あたしは慌ててその後を追う。
部屋はすぐにわかった。フロントの人から聞いた二階の突き当たりの部屋の前で、ドアを開けたそのままの姿勢で真昼が固まっていたからだ。
「置いてかないでよ。何、虫でも出た?」
「いや、その」
妙に歯切れの悪い答えが返ってくる。ふうん、こんな大きな図体して、虫が苦手なんだ。
「あたしが退治してあげるよ。さすがにムカデとかハチは無理だけど、ゴキブリくらいなら」
腕まくりをしながら勢いこんで部屋に入ったのはよいものの、あたしはその続きを言えなくなってしまう。中途半端にまくった袖が手首まですとんと落ちてくる。
部屋にはベッドがひとつしかなかった。それも、明らかにシングルではない大きなベッドが。
背後から真昼の控えめな咳払いが聞こえ、振り返ると目が合う。ヤツはすぐに顔を伏せたが、耳の先が真っ赤になっているから恥ずかしがっているのはバレバレだった。
この様子だと、あらかじめ知っていたわけではなさそうだ。
最初のコメントを投稿しよう!