123人が本棚に入れています
本棚に追加
あたしは一歩後ずさったが、焦っていたためにバスルームのドアに足の小指をぶつけて悶絶するはめになった。
一部始終を見ていた真昼が天を仰ぐ。そのままあたしの言葉には肯定も否定もせずに黙りこんでいたが、突然ぐっとてのひらを握りこんだかと思うとこっちを見た。
「旭は簡単そうに付き合うけどうまくいかないもんだ。バレーで活躍してるところを見せたらピィ子は『すごい』って言うと思ったけど、実際はかっこ悪いところしか見せられなかった」
何かが飛んできたのか、バスルームの窓がごちんと音をたてる。それが一瞬真昼の言葉を遮ったものの、ヤツはすぐにまた口を開いた。
「いったい何が間違ってるんだろうな。俺の好きなものはいつも俺の手の中で壊れるんだ」
真昼があんまり苦しそうに言うので、あたしはその空気に耐えられず、冗談めかして笑ってみせた。
「壊しちゃう原因はわかんないけど、壊れたら悲しくなるものなら、最初からそんなに好きにならなければいいよ」
「じゃあなんだよ。ピィ子は、すごく好きでも距離をとってほどほどにしか好きにならないようにしてるのか?」
氷枕の冷たさ。キャリーケースの車輪の音。
脳裏に一瞬よぎったものがあったが、あたしは慌ててそれを打ち消した。
最初のコメントを投稿しよう!