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次の出勤日は三兄弟全員そろっていたので、あたしはカツ丼を作った。
「次の勝負にカツ! なんちて」
ほんの冗談のつもりで言ったのに、食卓はまるで季節外れの大雪に見舞われたかのように冷えきった。
「カツ丼食べて勝つなんて発想、ピィちゃんは幸せだねぇ」
「ギャグのセンスが寒くないか?」
「ピィ先輩ってもっと現実主義かと思ってました」
そう文句を言うわりには、三人ともガツガツとカツ丼を口に運んでいる。
「結局旭さんってこの前勝ったんですか、負けたんですか?」
「えぇ~、ピィちゃんネットニュース見てないの?」
旭さんが頬についた米粒を指で拭いながら不満げに唇を尖らせた。
「あの勝負ネクタイと超劣勢をひっくり返す神の一手で話題になったと思ってたんだけど」
「じゃあ勝ったんですね。すごいじゃないですか!」
そう言った瞬間、三人の手が止まった。旭さんがふたりの弟にビシッと指をつきつける。
「第一回ピィちゃんバトルは俺の勝ちってことでいいよね!」
それを聞くと、真昼は机に突っ伏し、夕仁くんは天を仰いだ。
あたしに『すごい』と言わせたら付き合う権利をもらえるっていうあのバトル、てっきり自然消滅したと思っていたがまだ続いていたらしい。
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