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その後、真鍋真昼が人魚姫を演じるという噂は光の速度で学園中の女子の間にかけめぐった。
体育の着替えのために更衣室に向かおうとしていると、通りがかった見ず知らずの女子に「あの子が相手役だって」と指をさされた。
ロングホームルームは一限目、次の体育が四限目なので、この二時間のうちにかなり噂が広まってしまったらしい。
「あたしってなんでこう単細胞なんだろ。もはやミジンコレベルだよ」
「ことりちゃん、ミジンコは多細胞生物だから大丈夫だよ!」
あやちゃんが隣で励ましてくれる。ちょっとフォローの矛先がずれている気もするが、そののんきさに救われた。
あたしは別に悪いことをしたわけじゃない。たとえ学園中の女子に嫌われても、事情を知って味方でいてくれる大切な友達がいるのだからそれでいい。
すれ違う女子たちがひそひそと噂しているがあたしは何も怖くなかった。
「ピィ先輩!」
三限目は一年生のクラスが体育だったらしい。更衣室の手前で、夕仁くんと出くわした。
「ちょうどよかった。先輩ってお裁縫できますか?」
夕仁くんはそう言って、あたしの前に左手首を差し出してくる。
少し力を入れたら折れてしまいそうなくらい細い手首……ではなく、問題は彼が着ているカーディガンの袖にあった。
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