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彼のカーディガンの袖には小指の先くらいの穴があいていて、そこから糸が飛び出していた。
夕仁くんは差し出しているのとは反対の手で後頭部をかき、恥ずかしそうに笑う。
「どんどんビヨビヨになっていくんですよ。お気に入りなので捨てたくなくて」
「わかった。次のバイトまでに繕っておくから」
「ありがとうございます!」
夕仁くんからカーディガンを受け取り、そこで別れる。
「あたしもジャージ破けたらことりちゃんに頼んじゃおっかなぁ」
一部始終を見ていたあやちゃんが茶目っ気たっぷりにあたしをつついてきた。
「すっごく恥ずかしいアップリケつけて返してあげる!」
あたしの答えに、あやちゃんは声をあげて笑った。
今から教室に戻っている時間はない。体育の時間、夕仁くんのカーディガンはジャージを入れてきたカバンにしまっておくことにした。
カバンのチャックを勢いよくしめ、あたしは着替えてグラウンドへと向かった。サッカーだから外に集合だ。
今日は体育委員が風邪で休みらしい。たまたま先生の近くにいたばかりに、あたしは今日限定の体育委員をやるはめになってしまった。
準備運動の号令をしたり対人パスの三分間を計ったり、それだけでも大変なのに最後には用具の片付けまでしなければならなかった。あやちゃんは付き合うって言ってくれたけれど、昼休みに部活の集まりがあるらしいから遠慮した。
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