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仕事が全部終わって戻ると、女子更衣室の前に人だかりができていた。
彼女たちはちらりとあたしを見るなり、陰でひそひそやりだす。大方、人魚姫の配役の話をしているのだろう。
そう思っていたら、女子更衣室の中からクラスの子が飛び出してきた。
「高橋さん、あれ、高橋さんのだよね!?」
「あれってなに?」
彼女に引っ張られるがままに更衣室の中に入ってあたしは言葉を失った。
更衣室は両側の壁がロッカーになっており、床にはすのこが敷かれている。あたしが荷物をしまったロッカーが大きく開け放たれていて、すのこには先ほど夕仁くんから受け取ったカーディガンが背中部分を上に向けて広げられていた。
しかも、カーディガンの背中は真っ赤に汚れている。隣に分解されたボールペンが落ちているから、おそらくこれのインクをかけたのだろう。
さらに犯人は足で何度も踏みつけたらしく、アイボリーのカーディガンのあちこちに大きな靴跡がついていた。
「いい気味」
ふとそんな声が聞こえて顔を上げると、一川さんたち三人組が更衣室を出ていくところだった。その顔には意地悪な笑みが浮かべられている。
「高橋さん大丈夫?」
「気にしないほうがいいよ」
そう声をかけてくれる子もいたが、女子たちの中にはあの三人組と同じ気持ちを抱いている子も決して少なくなさそうだった。
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