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教室に戻ると、あたしたち以外もう誰もいなかった。カーテンが夕日の光を柔らかく通すから、床は淡いオレンジ色に染まっている。
真昼が斜めにのびる机の影を踏まないように歩いていき、自分の机に腰かけた。長い膝下がぶらぶらと揺れた。
「今日はバイトないのか?」
「無理やり連れてきておいて今さら聞く?」
あたしは観念して自分の机に荷物を置いた。真昼のほうは見ない。机四個分の距離の向こうで、真昼が台本をめくっている音が聞こえる。
「ふうん。珍しいな。休みなんだ?」
痛いところをつかれてあたしは机に突っ伏した。
「休みじゃなくて、クビになったの。ああ、カラオケボックス、好条件だったのに……」
「何か問題でも起こしたのか?」
「まあ少々」
あれは先週の土曜日のことだった。
バイトの後輩の元カレがカラオケボックスにやってきて、後輩と話したいと言い出した。
ヤツが無理やり後輩に復縁を迫っていることを知っていたあたしは、断固拒否。そのまま派手にもめ、最終的に彼氏は警察の御用になり、あたしはバイトをクビになったのだった。
後輩にはお礼を言われたが、思い出すだけで羞恥と後悔でのたうちまわりたくなる。
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