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「な、なに、なんか言ってよ」
真昼がふっと微笑んだ。吐息の音がやけに耳につく。いつもよりほんの少し柔らかい色をたたえた瞳にあたしが映っている。
彼の頬が赤いのは、夕日のせいなのか、それともまた別の理由からなのか――。
「ピィ子、おでこすりむいてるよ。ちょっと痛そうだ」
前言撤回。夕日のせいだったようだ。
あたしは真昼の手をはねのけて額をおさえた。おそらく先ほど顔面から転んだときにできた傷だろう。
ちょっとドキドキしていた自分が、何かあるのではないかと勘違いしていた自分が死ぬほど恥ずかしい。
真昼はあっさり離れていくとその場にしゃがみこんだ。あたしと真昼の身長差が逆転してヤツがあたしを上目遣いに見上げるかたちになるが、あたしはその無邪気な顔を直視できない。
「気をつけろよ、ピィ子。ほんと『おっちょこちょこちょい』だな」
おっちょこちょこちょ……ひとつ多い気もするが面倒くさいからツッコまないことにする。
「そうだ、俺、この前女子から絆創膏をもらった気がする」
真昼がポケットからくしゃくしゃの絆創膏を取り出して差し出してきたので、あたしはいたたまれなくなってつっけんどんにそれを押し返した。
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