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夕仁くんとの聞きこみ調査は次の土曜日の午後に決まった。
前日、あたしは私服をベッドに広げ、何を着ていくか悩みに悩んだ。服はあるのに着る服がないとはこれいかに。いつも量販店の五百円均一ゾーンで服を買っている自分を呪うしかない。
当日の朝はいつも通りに起き、最もまともな服を着て、予定通りの時間に家を出た。何もトラブルはなかった。
否、ないはずだった。
待ち合わせ場所である駅前の公園の時計台に向かうと、待ち合わせの十分前にも関わらず、夕仁くんはすでに来ていた。
ベンチに座り、スマートフォンではなく本に目を落としているその姿は額縁に入れて玄関に飾りたいくらい絵になっている。
「ごめん、待った?」
あたしが声をかけると夕仁くんは顔をあげ――目を丸くした。
「ピィ先輩、どうしたんですかそのかっこうは」
あたしは今一度自分のかっこうを見直す。
髪の毛は三つ編みにして前髪は少し巻いている。服はコーディネートのセンスが問われないワンピースにした。決して流行ではないが、こっくりとした色合いのチェックのワンピースは秋っぽくて気に入っている。
問題はここから先だ。あたしは靴を履いていなかった。
もちろん、もう十七年間も日本人をやっているのだから、靴を履き忘れて出かけるわけがない。
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