第2ラウンド VS夕仁

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 でもこの異常な状態についてどう説明したらいいのかわからず、あたしは笑ってごまかした。近くにいたカップルがじろじろとあたしの足元を見ていくのがどうにも気まずい。 「靴のヒールが壊れてしまったとか?」 「話せば長くなるんだけど、ここに来る途中で靴を貸してしまいまして……」 「靴を貸した!?」  夕仁くんが驚くのも無理はない。あたしもこんなのは人生で初めてだ。  公園の入り口で、あたしは不自然な走り方をしている人と出くわした。スーツ姿の若い女性で、危なっかしいなあと思っていたら案の定、段差で派手にすっ転んだ。  女性を助け起こすと、パンプスのソールの部分がぱっくりとはがれてしまっていることがわかった。この状態でずっと走ってきたらしい。  彼女は就活生で、八分後の電車に乗らないと面接に間に合わないのだという。ここから駅まで三百メートル弱あることを考えるとこの壊れたパンプスで走るのは現実的ではないだろう。  そう判断した次の瞬間には、あたしは自分の靴を脱いで彼女に差し出していた。 「とりあえずこれ履いて走ってください。駅までつけばこっちのもんですよ。駅でアロンアルファ買ってくっつければ、きっと、面接に間に合います」 「でもお姉さん、これからお出かけなのでは?」 「面接のほうが大事です! あと八分しかないですよ!」  あたしの靴を履き、その女性は何度も頭を下げながら走り去っていったのだった。
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