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事の顛末を聞いた夕仁くんは真面目な顔でベンチから立ち上がり、着ていた黒いマウンテンパーカーをあたしの肩にかけてきた。柑橘系の爽やかな香りがふわっとたちのぼる。
「まったく。何やってるんですか、ピィ先輩。間に合わせの靴を買ってくるのでここに座っていてくださいね。すぐ戻りますから」
あたしがお礼を言う間もなく夕仁くんは走っていってしまう。
彼が視界からいなくなって、あたしはハッと我に返りベンチの上でのたうちまわった。
当たり前のようにかけられたマウンテンパーカーに残るほんのりとした温かさや、あたしのものとまったく違うサイズ感、そして自分が今こんな状況にあっていることにいたたまれない気持ちになる。
――なんだこれ、少女漫画か!
そうツッコんでいないとと恥ずかしさで顔が爆発しそうだった。
すぐに戻ってくると言ったとおり、夕仁くんは十分もしないうちに黒いスニーカーを買ってきてくれた。千円の激安スニーカーを選んでくれたあたり、夕仁くんはデキる男だ。
「じゃあ、聞きこみにいきましょうか」
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