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それからあたしたちは駅前の商店街の靴屋さんに向かった。二十五センチ以上の上履きを買った女子生徒の記録を得るためだ。
しかしそれは徒労に終わった。顧客の個人情報は明かせないらしい。
結局何も手がかりが得られないままお昼になり、小腹もすいたのであたしたちは駅前でお茶をすることにした。
「あそこでいいですか?」
夕仁くんが指さした建物を見た瞬間、あたしの表情筋が凍りついた。
そこにあったのは全国チェーンのコーヒーショップだ。あたしも名前ぐらいは知っている。ただし、入ったことはない。貧乏高校生が買うにはどのドリンクも高すぎるのだ。
あたしはお財布の中身を必死で思い浮かべる。
先ほどのアクシデントでスニーカーを買ってしまったからあまり持ち合わせがない。確か、百円玉が五枚と十円玉が何枚かは入っていたと思う。このコーヒーショップの一番安いドリンクは、それで足りるだろうか。
「顔色悪いけど大丈夫ですか? ちょっと休憩しましょう?」
夕仁くんが顔を覗きこんでくる。
「やっぱり向こうにしない?」
あたしは道路をはさんで向かいのビルの喫茶店を指さした。あそこに激安ケーキセットのメニューがあるのは有名な話だ。
しかし、夕仁くんは首を横に振った。
「あそこのコーヒーあんまりおいしくないんですよね」
これだからちょっと育ちのいいお坊ちゃんは!
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