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何か変なところでもあっただろうかと目を落としてあたしは愕然とした。
百円玉だと思っていた小銭のうちの一枚には穴があいていた。つまり、五十円玉だったのだ。
「間違えましたっ」
五十円玉を引っこめてもう一度がま口を開く。血の気がひいた。お財布に入っているのは一円玉が三枚だけだったのだ。
あたしは手に持った五十円玉をそっと夕仁くんに差し出す。
「ごめんなさい。持ち合わせが……」
「いいですよ。女の子におごるのも人生経験ですから」
払うと言っておきながらお金が足りないなんてこんなにダサいことってない。一度は出した四百八十円をお財布にしまうチャリンという音があまりにもみじめで、手が震えた。
それでもその羞恥心はドリンクに口をつけた瞬間にどこかに吹っ飛んだ。寒い日に飲む温かくて甘いものほど最高なものってない。
「先輩ってなんかかわいいですね」
夕仁くんが突然そんなことを言い出したので、あたしは抹茶ドリンクを吹き出しかけた。
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