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「夕仁くん、そんなに焦らなくても、いつかきっと自然に好きな人ができるよ」
「いつかじゃダメなんです!」
夕仁くんが机から身を乗り出す。その目はいつものピュアで愛嬌のある夕仁くんとはまるで違っていて、真剣で、見ているこっちがぴりぴりするくらいの焦りに満ち溢れていた。
「十六歳には十六歳の恋が、二十歳には二十歳の恋があります。過ぎたらもう二度と経験はできません。十六歳の恋を経験しなかったら、僕の演技は浅いままだと思うんです。文化祭後にある次のオーディション、絶対合格したいから」
その時、ふいに誰かに名前を呼ばれた気がしてあたしは振り返った。
「どうかしました?」
「いや、今、誰かに呼ばれた気がして」
「ピィ子!」
やっぱり聞こえた。
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