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怪獣みたいな大げさな足音が聞こえる。真昼は手洗いもうがいもせずにまっすぐにリビングにやってきた。
「ピィ子は?」
「ピィちゃんはキッチンだよ」
真昼があたしを探しているのはいつものことだが、今日はなんだか様子が違った。思わず手に力が入り、シンクに洗剤を出しすぎてしまう。
キッチンに現れた真昼は十一月半ばだと思えないくらい汗だくだった。息もあがっている。走って帰ってきたのだろうか。
「ピィ子と夕仁が付き合ってるって噂を聞いたんだけど、本当か?」
「付き合ってないよ。誰から聞いたの、そんなこと?」
真昼はそれには答えずに言葉を続けた。
「じゃあどうしてピィ子は最近俺のこと避けてるんだよ」
「別に避けてない。それより今日の夕飯は竜田揚げだよ。旭さんもおいしいって言ってくれたし期待していいよ。珍しいんだけど、鶏肉の下味の隠し味には……」
真昼に手首を掴まれる。手に持っていたスポンジがぽろりとシンクに落ちた。
「ごまかすなよ」
「ごまかしてなんか……」
わかっている。いつもと比べて不自然なほど饒舌だっていうことくらい。でも隠し味の話でもしていないともっと大事なものが隠せない気がしたのだ。
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