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「ちょっと真昼、いきなりどうしたっていうのさ」
旭さんが慌ててやってきてあたしと真昼の間に割って入ったが、真昼のほうが力が強く、旭さんはいとも簡単に押しのけられた。冷蔵庫にしたたかに背中をぶつけて彼がうめく。
ああ、もう隠し通せない。あたしは真昼をひたと見すえた。
「夕仁くんには犯人探しを手伝ってもらってるだけだよ」
「犯人探し?」
「そう。あたし、最近嫌がらせされてるから」
真昼がぐっと息をのむ。その唇が言葉を探すようにパクパクと上下している。
「……そんなの、言ってくれたらよかったのに」
しばし考えこんで、真昼はやっと絞り出すようにそう口にした。
「言いたくなかったから真昼を避けてたんでしょ」
あたしがそう言うと、掴まれていた手首がいきなり解放された。自由になった手首は離された勢いのままシンクの内側を打ち、ぼやけた音をたてる。
あたしの手首を離した真昼は、何かを言おうとしていた先ほどとは打って変わって唇をぎゅっと引き結んでいる。その目の奥で不安げな陰がゆらゆらと揺れていた。
「じゃあなんで、俺には言えなくて、夕仁には言えるんだよ」
大事な大会の前に心配かけたくなかったからだよ。
そう言ってしまいたかったけれど、あたしはその言葉を飲みこんだ。知られてしまった以上今さらそんなことを言ったところで無意味だからだ。
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