122人が本棚に入れています
本棚に追加
「ピィちゃん、追いかけなよ。今なら誤解とけるよ」
頭上からちょっと面白がるような旭さんの声が降ってきた。あたしは立ち上がり、シンクに落ちたスポンジを拾って掃除を再開する。
「別にそんなのどうでもいいです」
「あ、ムキになってる」
「なってません」
「じゃあどうでもいいならどうしてそんな顔するの?」
銀色のシンクにはあたしの顔がうつっている。でも、洗剤のせいでぼんやりと濁っていてシルエットしかわからない。
あたし、今、どんな顔をしているのだろう。
「何の誤解をとくっていうんですか。あたしは真昼に弱みを見せるのがいやだったから言わなかっただけで」
「うん、わかるよ。春高予選前の真昼が部活を蔑ろにしたり、犯人をボコボコにして出場停止になったら嫌だったんだよね。真昼によけいな心配をかけたくなかったんだよね」
「それに夕仁くんには言えるのにって言うけど自分だってこの前あやちゃんとデートしてたし」
「だから一方的に言われるのがちょっと面白くないんだね」
それ以上言葉が続かなくてあたしは口を閉ざす。
「人間関係って難しいねぇ」
「心の中読まないでください!」
旭さんはあたしの顔を見るとぷっと吹き出した。
「だってピィちゃんの顔に全部書いてあるんだもん。読めないのは真昼くらいじゃないの」
最初のコメントを投稿しよう!