第2ラウンド VS夕仁

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「全員そろってるー?」  文化祭実行委員が点呼をとりはじめる。 「王子、高橋ことり。人魚姫、真鍋真昼」  視線が真昼に集まる。  物語は人魚姫の真昼が王子に恋をするところから始まる。そのため、真昼は魚の尾びれを模した青緑色のビニール袋を下半身にまとい、胸には貝殻のブラジャーをつけている。  黒髪ロングヘアのウィッグをつけてメイクを施した真昼は、筋肉質の体を差し引いても、そんじょそこらの女子では太刀打ちできないくらい美しかった。 「隣国の姫、木下彩花。木下! 木下! ……まだ来てないようだな」  ふいに真昼がちらりとこちらを見て、驚いたように目を見開く。真昼を見ていたと思われることが癪であたしは慌ててそっぽを向いた。  あたしの王子様の格好はそんなに変だろうか? 「高橋! 後ろ!」  実行委員の男子が点呼をやめてそう叫んだ。振り返ると、あたしの後ろにあった大道具のセットのひとつがバランスを崩して傾いだところだった。  すべてがスローモーションに見えた。  大道具はゆっくりとこちらに向かって倒れてくる。女子たちが口々に何か言っている。頬に手を当てて、まるでムンクの叫びみたい。  逃げなきゃと思っても、自分の体までそのスローモーションにとらわれたかのように動かない。重たいのだ、腕も足も瞼さえも。  ダメ、このままじゃ、下敷きになる。
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