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どこか冷静な頭でそう考えた瞬間だった。
背中を何かに強く突き飛ばされ、あたしは床に倒れこんだ。あたしの名前を呼ぶ声と真昼の名前を呼ぶ声が交錯する。
体を起こすと、大道具があたしの足元すれすれで倒れていて男子二、三人がかりでそれを起こしているところだった。
大道具が持ち上げられた瞬間、あたしは心臓が止まるかと思った。その下から真昼が這い出てきたのだ。
大道具は薄いベニヤ板と木の枠組でできており、あまり重たいものではなかったことが幸いしたようだ。真昼は何事もなかったかのように立ち上がって、衣装が少し破けたことを衣装係の女子に謝っている。
「真昼!」
あたしは慌てて真昼に駆け寄った。だって真昼は明日、大事な大会があるのに。
「助けてくれたの?」
真昼がヘラヘラ笑いながら、右手で頭をかく。
「おう。かなり強く突き飛ばしたけど怪我なかったか?」
「そっちこそ!」
「俺はなんともない」
真昼が右手をひらひら振る。どうして右手ばかりそんなにせわしなく動かしているのだろう。
ちりりとした違和感を抱き、あたしは予告もなしに真昼の左手首を掴んだ。真昼がいてっと顔をしかめる。
「手首、痛めたの……?」
答えはなかった。しかし答えないことこそが肯定を示していた。
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