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あたしは夕仁くんに電話をかけた。真昼があたしをかばって怪我をしたため、代役を探している。そう事情を説明すると夕仁くんは快く引き受けて来てくれた。
「よっしゃ。二年二組ウィズ真鍋弟の底力見せるぞーっ!」
「おーっ」
早速みんなが動き始めた。
夕仁くんは台本を受け取って着替えにいき、本番二分前に舞台袖に戻ってきた。その手に台本はない。もう覚えてしまったらしく、口の中でぶつぶつと何かを繰り返し呟いている。
あたしはそっと夕仁くんに歩み寄った。
「ありがとう、夕仁くん。急なお願いでごめんね」
次のクラス発表を知らせるアナウンスが流れ出す。舞台袖にぴりぴりとした緊張が走る中、夕仁くんがセリフを呟くのをやめ、ふっと微笑んだ。
「そんな顔しないでください、ピィ先輩」
「あたしどんな顔してる?」
「この世の終わりみたいな顔。大丈夫ですよ。兄さんは丈夫だけが取り柄なので」
「……うん。そうだよね。今はこっちを頑張らなきゃ」
「真昼兄さんのことになると、ピィ先輩はそんな顔するんですね。なんでだろう、悔しいな」
「え?」
その言葉の真意を聞こうとしたとき、ちょうどブザーが鳴って幕が開き始めた。
(じゃ、いってきまーす)
夕仁くんが口パクでそう言って、舞台へと飛び出していった。
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