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その熱い視線に思わず一瞬固まる。しかし夕仁くんはすぐににっこりと笑ってみせた。
「どうですか? 今の演技」
「あ、やっぱり演技だよね、そうだよね。いつもみたいにパチンって爪の音が鳴らないからびっくりしたよ」
「今のはいいセンいってたみたいですね。僕、なんだか受かる気がしてきました」
「うん、頑張って!」
あたしは家を出ていく夕仁くんを見送る。その背筋はピンとのびていて、もういつもの自信がなさそうな猫背ではなかった。
「おチビだと思ってたけど案外やるねぇ、夕仁のやつ」
リビングから旭さんが顔をのぞかせた。
「盗み聞きなんて趣味悪いですよ。それにしても、夕仁くんの好きな人って誰なんでしょうね。ちょっと気になるかも。……って、勘ぐっちゃうあたしのほうが趣味悪いか」
旭さんが大げさに肩をすくめる。
「ピィちゃんは鈍感で困っちゃうよ、ほんと」
「何がですか?」
「わからないならおれが手とり足とり教えてあげよっか?」
「なんか五秒後に解雇のにおいがするので遠慮します」
リビングに向かう途中、あたしはもう一度玄関を振り返った。
ファイトだよ。ふたりとも。
(第2ラウンド VS夕仁 WIN!!)
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