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あたしじゃなくてもっと年上の人生経験豊富なパートさんだったら「やだ、店長」とか「そうなんですかねぇ」なんて、大人の対応で穏便に受け流せたのかもしれない。でもあたしには無理だった。グーじゃなくてせめてパーにしようと思った瞬間にはこぶしを振り抜いていた。
店長のその立派な顎に右ストレートがキマったとき、セクハラ被害を受けていた女性パートさん全員からうっとりとした感嘆の声がもれた。獅子奮迅、悪霊退散、この印籠が目に入らぬか。しかし水戸黄門やおとぎ話と違って、めでたしめでたしというわけにはいかない。
結果としてあたしはバイトをクビになり、所持金八十一円なんていう漫画みたいな極貧状態に陥っている。
元より、指示のたびにボディタッチされたり世間話のように性生活を聞かれたりするのは限界だったのだ。自分のしたことに後悔はない。
絶対にない。
……ないよね?
でもどこかの誰かさんが言っていた。『パンは剣よりも強し』って。下位層の人間の腕っぷしがどんなに強かろうと上位層の持っているおいしいパンには敵わないという意味である。もしかしたらパンじゃなかったかもしれないがそんなことは大した問題じゃない。あたしは今、モーレツにコロッケパンが食べたいのだ!
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