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ふと視線を感じて隣を見たら、真昼がじっとこっちを眺めていた。
「な、何見てんの。なんかついてる?」
唇のふちを指先で拭いながら尋ねると、真昼は見ていたことがバレてばつが悪いのか、苦虫を噛み潰したような顔でふいっと顔をそらした。「もう好きって迫ったりしない」という言葉が重みをもってあたしに迫ってくる。
「あのさ、変に避けたりしないでよ。なんか調子狂うじゃん」
「好きって態度に出さないようにするとこうなるんだよ」
「そもそもなんでそんなこと言い出したわけ?」
「ピィ子がクビにならないためだ」
「あれだけ追いかけまわしておいて今更何言ってんの。大丈夫? 熱あるんじゃないの?」
あたしは真昼の額に手を伸ばそうとした。しかし手首をぱっと掴まれる。
あたしは冗談のつもりだったが、真昼の顔は真剣だった。
「あの日も俺がこうやって引き止めたんだよな」
「……え?」
「ピィ子が俺の看病をしてくれた日。あの日のことはずっと記憶があやふやだったけど思い出したんだ。俺、ピィ子に言ったんだよな。『行かないで母さん』って」
「言ってないってご本人はおっしゃってましたけどね」
「うるさいな。あの時は言うわけないと思ってたんだよ。だって小さい子じゃあるまいし」
真昼は照れたように唇を尖らせる。
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