第3ラウンド VS真昼

15/51

122人が本棚に入れています
本棚に追加
/253ページ
 ふと視線を感じて隣を見たら、真昼がじっとこっちを眺めていた。 「な、何見てんの。なんかついてる?」  唇のふちを指先で拭いながら尋ねると、真昼は見ていたことがバレてばつが悪いのか、苦虫を噛み潰したような顔でふいっと顔をそらした。「もう好きって迫ったりしない」という言葉が重みをもってあたしに迫ってくる。 「あのさ、変に避けたりしないでよ。なんか調子狂うじゃん」 「好きって態度に出さないようにするとこうなるんだよ」 「そもそもなんでそんなこと言い出したわけ?」 「ピィ子がクビにならないためだ」 「あれだけ追いかけまわしておいて今更何言ってんの。大丈夫? 熱あるんじゃないの?」  あたしは真昼の額に手を伸ばそうとした。しかし手首をぱっと掴まれる。  あたしは冗談のつもりだったが、真昼の顔は真剣だった。 「あの日も俺がこうやって引き止めたんだよな」 「……え?」 「ピィ子が俺の看病をしてくれた日。あの日のことはずっと記憶があやふやだったけど思い出したんだ。俺、ピィ子に言ったんだよな。『行かないで母さん』って」 「言ってないってご本人はおっしゃってましたけどね」 「うるさいな。あの時は言うわけないと思ってたんだよ。だって小さい子じゃあるまいし」  真昼は照れたように唇を尖らせる。
/253ページ

最初のコメントを投稿しよう!

122人が本棚に入れています
本棚に追加