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お茶を入れてからあたしはすぐにお暇することにしたのだが、帰り際、家を出たところでお母様に呼び止められた。
「高橋さん」
「なんですか?」
「真昼はあなたのことが好きみたいね」
鋭い眼光に射抜かれ、あたしは慌てて顔の前で手を振る。
「あの、でもあたし、規則は守るつもりです」
「そうね。あなたはそう言ってくれると思った。だけど真昼は納得しないでしょ。頷くまでどこまでも追いかけてくると思う」
あたしは出会ったばかりの頃の真昼を思い出して頷く。確かにどこまでも追いかけられた。物理的にも心理的にも。
お母様が目を細める。
「真昼をフッてあげて。どんなに傷つけて悲しませてもいいから、もう二度とあなたに告白しないくらいきっぱりと断ってほしいの」
そこでようやくお母様の意図がわかり、あたしは言葉が出なくなった。
お母様は最初からこのつもりだったのだ。真昼を頭ごなしに否定したところで自己中なあいつは聞きやしない。ならば、真昼の申し出は聞いておいて、相手側の人間であるあたしに断らせたほうがスムーズに事が運ぶ。
「真昼には適当な年齢で同業のスポーツ選手を紹介するつもりだった。だからもともと真昼にはあなたを諦めてもらうしかない。でもそれができるのは、あなただけよ」
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