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それからどうやって家に帰ったのかうまく思い出せない。
気づいたらあたしは呆然と自分の部屋で机に突っ伏していた。台所に行ったら流しに食器が積まれていたから、ご飯だけはちゃんと食べたみたいだ。
洗い物をして、お風呂に入って、冬休みの課題をやって、それにお父さんに明日届ける着替えの準備もしなきゃ。
ふわふわとした気持ちが冷めていく。嫌でもあたしの手でまわしていかなければならない日常が、急に身に迫ってきた。
お父さんの今月のお給料は雀の涙程度しかない。でも冬は何かとお金がかかる。一番お給料のいいこの家政婦のバイトを、今、解雇になるわけにはいかないのだ。
愛だの恋だのくだらない。そんなもので、飯は食えない。
お風呂に入ったら、お湯の温かさに涙が出てきた。鼻の下まで湯船に浸かるとバブの味がした。どうしようもなく苦かった。
どうして好きになってしまったのだろう。よりによって真昼なんか――バイト先の男の子なんか。
もしあたしが家政婦をやらなかったら、真昼とは卒業まで決して関わることがなかったはずだ。高校を卒業して、数年後にテレビで見かけて、「あたしこの人と高校のとき同じクラスだったんですよ」なんて周囲にちょっと自慢するだけの存在だったはずだ。
どっちにしろあたしと真昼は結ばれる運命ではなかったのだ。
お風呂の中でさんざん泣いた。嗚咽するたびに口の中にバブ味のお湯が入りこんだから、二リットルは飲んだと思う。お腹はたぷたぷになったが、でもちゃんと腹を決めた。
あたしはあたしのやるべきことをするだけだ。
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