第3ラウンド VS真昼

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「デートも連絡も頻繁にしてくれなきゃ嫌。でも真昼は部活で忙しいでしょ。だからごめん」  真昼が言葉に詰まった。あたしはそこでようやく顔を上げた。  住宅街の真ん中でじゃがいもを追いかけた雨の日のことを思い出した。 「真昼はもう自己中じゃないから、いや、自己中なんだけど、悪い自己中じゃないっていうか」  旭さんに勝負ネクタイを届けるために行った静岡で、お父さんに電話して事情を説明してくれたこともあった。  喧嘩中だったから、ホテルではバスタブで窮屈そうに寝ていたっけ。 「とにかく、他人を思いやれるようになったんだから、もっと素敵な女の子と出会えるよ」  文化祭前はお互いのことを心配するあまりすれ違うこともあった。  そうやって真昼と衝突するたびに、真昼なんか嫌いだって思った。今度こそ真昼とは仲直りできないと思った。真昼も思っただろうけど、それでもあたしなんかを好きでいてくれた。好きを育ててくれた。 「もともとあたしたち釣り合ってなかったっていうか、真昼があたしのこと好きになった事自体奇跡っていうか。とにかく貴重な体験だった」  あたしの中でくすぶっていた幼いあたしに「どこにも行かない」って手を差し伸べてくれた。この十年間、一番欲しくて、でもお金よりずっと手に入れるのが難しかった言葉だった。 「あたしを好きになってくれてありがとう。じゃね」
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