122人が本棚に入れています
本棚に追加
/253ページ
あたしはぱっと駆け出して真昼の脇をすり抜けた。
「ピィ子! 待てよ!」
真昼に呼び止められたが、待てと言われて立ち止まるくらいなら最初から逃げたりしない。足を止めたら、一晩かけて固めてきた決心が崩れてしまう気がした。
駅まで走って、やってきた電車に飛び乗る。真昼は今までみたいに追いかけてこなかった。
家の最寄り駅までついて、あたしは歩きながらあやちゃんに電話をかけた。
『もしもし』
電話に出たあやちゃんの声は、早朝の水たまりに張る薄氷のようにキンと張り詰めていた。
「あのさ、単刀直入に言う。真昼のことお願いしてもいい?」
『なにそれ、新手のイヤミ?』
あたしはすべての事情をあやちゃんに説明した。
真昼とは両思いになったがバイトの規則上付き合えないこと。真昼がお母様に持ちかけた交渉のこと。そのかたわらでお母親に、あいつをフらなければ解雇になると言われたこと。それであたしが真昼をフッたこと。
全部聞いたあやちゃんはあの優しくておとなしいかつてのあやちゃんの皮を脱ぎ捨てて、ケッと吐き捨てた。
最初のコメントを投稿しよう!