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それから一分も経たないうちに再び電話がかかってきて、あたしは半ばキレながら応答ボタンを押した。
「はいもしもし!」
『ピィちゃん、真昼をフッたって本当?』
電話相手として表示されている名前は真鍋夕仁となっているが、聞こえてきたのは旭さんの声だった。おそらくふたりは一緒にいるのだろう。
「本当です」
『どうせ母さんからの圧力でしょ? おれも協力して説得するから考え直してよ』
「確かにお母様から言われたのは事実です。でも、真昼よりこのバイトをとったのは、あたし自身の意思です。何も後悔はありません」
『それでいいの? 自分にまっすぐで、相手が誰だろうと気づいたら啖呵切ってる身の程知らずがピィちゃんのはずでしょう?』
ひどい言われようである。
『旭兄さん』
ずっと黙っていた夕仁くんがたしなめるようにゆっくりと旭さんの名前を呼んだ。
『やめようよ。今は真昼兄さんもピィ先輩も心が苦しいかもしれないけど、いつかきっと時間が解決してくれる。ピィ先輩が決めたっていうなら、僕はそれを尊重する』
夕仁くんのはっきりした意見に、旭さんはしばし黙りこんでから、小さな声で「ごめん」と謝った。
『ピィちゃんだって傷ついてないはずないよね。おれ、考えなしでごめん』
「ううん。心配してくれてありがとうございます。じゃあまた、次のバイトのときに」
電話を切ってから、あたしはスマホを投げ出した。
――今は真昼兄さんもピィ先輩も心が苦しいかもしれないけど、いつかきっと時間が解決してくれる。
夕仁くんの声が蘇る。
解決してくれるかな、あたしのことも、真昼のことも。
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