第3ラウンド VS真昼

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「行ったところで無駄よ、この試合は負けるだろうから。確かに真昼はうまいけど、肝心なときに『真昼に』と頼ってもらえる信頼がないのなら、どんな才能もゴミ同然よ。ひとりでやるスポーツじゃないんだから」 「母さんは真昼にひどすぎるよ」 「負け犬に優しくしてどうするっていうの。次勝つためにどうするか、その才能を十二分に活かすための方法を、わかってくれるまで説明し続けるだけでしょう?」  あたしはぐっとこぶしを握りこんだ。  それがこの人の愛のかたちなのだろうと思う。どんなに冷たく厳しく見えても、息子に才能を開花させてほしい、活躍してほしいというただその一心なのだ。その気持ちは誰にも間違いだなんて言えるものじゃない。  でも、ふたつだけ間違っていることがある。  真昼はインターハイの頃とは違う。ひとりでやれたらいいのになんてもう言わないだろうし、彼のまわりにはまだ不器用な関係ながらも仲間がいる。それに。 「まだ真昼は負けてないですよ!」  画面の中で、床に這いつくばるようにしてボールを拾った真昼が再び立ち上がった。  それを見届けてあたしは玄関のドアノブに手をかけた。 「あの、あたし、行きます。それじゃあ」 「真昼の応援に行くならそういうことよ。わかってるわよね?」  お母様が冷たい目であたしを見下ろしてくる。その鋭い視線に一瞬ひるんだが、あたしは覚悟を決めた。  あたしは高橋ことりだ。ワガママで、気が強くて、お節介で短気で身の程知らずな女だ。誰に対してもそれは一緒だ。 「……わかってます!」
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