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旭さんの背中が廊下を曲がって見えなくなる。それを合図に前からは廊下にいた女子たちが、後ろからは教室にいた女子たちがいっせいに迫ってきた。あたしはホットサンドみたいにぺしゃんこにされる。
「ねえ、高橋さん」
先ほどあたしに伝令しにきたクラスの女子が、代表してずいっと顔を寄せてくる。
「さっき旭さまと何の話をしていたの?」
見れば、女子たちはそれぞれ尖ったものを手に握りしめていた。箸、シャーペン、指揮棒、画鋲、エトセトラ。これは本当のことを言ったらダメなやつだ。
あたしは斜め上を見ながら答える。
「ダウ平均株価上がりましたよね、みたいな?」
旭さんがなんであたしにそんな話をしにきたのかとか後学のために教えてほしいとか言われたら言い逃れできなかったけれど、幸い、恋する乙女たちは盲目だった。
「旭さまってばやっぱり知的ね~!」
女子たちから逃れてあたしは大きく息をつく。
『付き合っちゃダメなんて一周間うんこしちゃダメって言われるのと同じくらい難しくない?』
そう言った旭さんの真剣な声を思い出す。あれは冗談じゃなくマジだ。大マジなのだ。
真鍋家の家政婦が今年で九人も辞めていたり真鍋家が家政婦紹介所にブラックリスト登録されているのは、もしかして、旭さんが誰彼構わず家政婦に手を出して「三兄弟との交際禁止」という条件を破らせているからなの?
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