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「協力してあげたいのはやまやまなんだけど、あたし、雇用契約で三兄弟とは交際禁止でしょ。だから夕仁くんとお付き合いすることは」
「待ってください!」
てのひらを向けられて言いかけた言葉を止められる。
「僕、これから二・五次元舞台の円盤の特典VTRの撮影で栃木に行くんです。今断られたら、ショックで仕事に影響が出るかも」
なんだか記憶にある流れだぞ、これは。
夕仁くんがシャツの袖で目元を拭うと、壊れた蛇口のように流れていた涙はピタッと止まった。
「というわけで、返事は明日以降に教えてください。ご検討のほどよろしくお願い致します」
「待って。もしかしてさっきの全部演技だったの?」
「泊まりがけの仕事なので夕飯はいりません。時間だからそろそろ出なきゃ」
夕仁くんはあたしの質問には答えずにそそくさとリビングを出て行った。答えないということこそが一番明確な答えだった。
「いや、めちゃくちゃ演技うまいじゃん! 人生経験積む必要ないから――――っ!」
その後洗濯物を干そうとしたあたしは、洗濯機の中身が無残にも白い物体まみれになっているのを発見した。原因は夕仁くんのズボンのポケットに入っていたポケットティッシュだった。
旭さんのシャツの袖に気を取られていてちゃんと確認しなかったあたしが悪いのだが、思わずため息が出てしまう。
脱いだものってその人の性格が出る。裏返しにもくしゃくしゃにもなっておらず一見まともそうだけど、実はポケットにティッシュを隠している。夕仁くんも、そういう人なわけね。
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