開幕 うわさの三兄弟

34/54
前へ
/253ページ
次へ
 三兄弟の最後のひとり、真鍋くんが帰ってきたのは、夕仁くんが出かけてから三十分後のことだった。あたしはゴミの分類を終え、玄関の掃除に着手していた。  強烈な西日が玄関ドアのすりガラスから射してくる。目を細めながら雑巾がけしていると、唐突にドアが開いた。学校名の入った大きなエナメルバッグを背負った真鍋くんがドアの隙間から滑りこむように玄関に入ってくる。  旭さんや夕仁くんと違って、真鍋くんはあたしが家政婦になることを半分認めていない節がある。要注意人物だ。  あたしは慌てて立ち上がってエプロンの裾についた埃をはたいた。 「ごめんなさい。部活終わるの遅いって聞いてたから、まだ夕飯の準備が終わってなくて」 「ああ」  返事はそっけない。 「あ、あの、旭さんと夕仁くんはそれぞれお仕事で今日は泊まりらしくて」 「そう」  真鍋くんが投げ出すように靴を脱いだ。廊下の端に避ける間もなく真鍋くんと正面衝突するはめになる。  真鍋くんはわざとぶつかってきたか、わざとでないのなら「お前がよけろよ」と怒り出すかのどちらかだろう。そう思ってあたしは離れようとしたが、彼はあたしを引き止めるかのようにぶつかった肩に顔をうずめ、体重を預けてきた。そのまま真鍋くんは動かなくなってしまう。  制服のブラウスの肩ごしに彼の熱い息を感じて、ときめきとか怒りよりも戸惑いが勝った。
/253ページ

最初のコメントを投稿しよう!

133人が本棚に入れています
本棚に追加