開幕 うわさの三兄弟

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***  どうしてこんな時に限って旭さんも夕仁くんも泊まりがけのお仕事なのだろう。  旭さんに電話したら、まだ新幹線の中なのか、呼び出し音が鳴るばかりでいっこうに出る気配はなかった。  その後、吐物を処理してから真鍋くんの部屋に様子を見に行くと、彼は真夏にも関わらず毛布にくるまって震えていた。  体温計を無理やりわきの下に押しこんで熱を測らせれば八度九分あった。学校の保健室で測ったときよりも上がっている。寒がっているということはこれからもっと上がるのかもしれない。  旭さんから折り返しの電話があったのは、氷枕や飲み物を取りに一階に戻ったときのことだった。旭さんはちょうど神戸についたばかりらしい。電話の向こうからは事務的なアナウンスと駅特有のせかせかしたざわめきが聞こえてくる。 『ピィちゃんから電話してくれるなんて嬉しいなぁ』 「そ、それどころじゃないんです!」  あたしはスマホにすがりつくようにして手短に状況を伝えた。弟が熱で苦しんでいるという逼迫した状況なのに、それを聞いた旭さんはけらけらと笑いだす。
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