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「ふぎゃっ」
ふいに右手首を強く引っ張られ、あたしはベッドのそばに膝をついて倒れこんだ。
こんなに熱くて大丈夫なのだろうか。タクシーを呼んで病院に連れていくべき?
柄にもなく焦ってしまう。自分が看病された記憶を思い出そうとするが、何一つ出てこない。あたしは七歳からずっと父子家庭で育ったし、それに健康優良児なので滅多に熱など出さないからだ。
寝こんだ時に最後に誰かがそばにいたのは、いったい、いつだったろう。
「あの、あたし、帰るから離して」
あたしは掴まれている手でそっと毛布をめくった。真鍋くんの頭があらわになり視線がかち合う。
彼の瞳は熱のせいでうるんでいて、黒目の中の光が弱々しく揺れていた。あたしの知っている真鍋くんらしくないその様子は、五歳か六歳くらいの小さな男の子のように見えた。
見てはいけないものを見てしまった気がする。めくった毛布の生暖かさも含めて居心地が悪く、手を引こうとするが、きゅっと引き戻された。
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