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「おい、高橋」
肩を揺すられてあたしはハッと飛び起きた。ベッドの端っこに突っ伏すようにして眠っていたみたいだ。シーツによだれがたれていたのでごしごしこすってごまかす。
変な姿勢で寝ていたためか体がバキバキだ。のびをして凝り固まった肩周りの筋肉をほぐしていると、上半身を起こしてベッドに座った真鍋くんと目があった。
「なんでここに高橋がいるんだよ」
「なんでって昨日のこと覚えてないの?」
「帰ってきてからの記憶があやふやで……。もしかして、一晩中つきっきりで看病してくれたのは高橋なのか?」
そういう言い方をするとまるであたしが真鍋くんのために尽くしていたかのようで語弊があるが、事実だけ追えばそういうことになる。
あたしは枕元の体温計を真鍋くんに渡し、首をかしげつつも頷く。
「うん。でも『行かないで』って言って引き止めたのは真鍋くんだよ」
体温計をわきの下にはさんだ真鍋くんはそれを鼻で笑った。
「この俺が『行かないで』なんて言うわけない。高橋が俺の看病したかっただけだろ」
真鍋くんは自信たっぷりにそう言い放つ。殺意がわいた。体温計をケツの穴からさして牛スタイルで検温してやろうかと思ったくらいだ。昨日の弱々しい姿は幻だったのだろうか。
最新式の体温計はうちのものと違ってすぐに結果を示した。三十六度五分。旭さんの言うとおり、一晩寝ていたら治ってしまったみたいだ。
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