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「帰ればよかった!」
「帰ればよかったのに、高橋は帰らず、一晩中俺の手を握っていたわけだ」
「あのねぇ、あたしが握ってたんじゃなくてあんたがあたしの手首を掴んでたの。それより具合はどうなの? 大丈夫そうならもう帰るからね?」
真鍋くんはしばし黙りこみ、あたしのことを穴があきそうなほどじいっと見た。かと思えば、急にベッドに横になってこちらに背を向けてしまう。
「もう出てけよ。さっきから高橋の顔見てると、なんだかここが――胸のあたりがムカムカして気持ち悪いんだよ」
それが一晩中看病してくれた人に対する言葉なわけ? とか、こっちは無給の時間外労働なんですけど、とか言いたいことはたくさんあったが、病み上がりの人と口論するのはよくないと思ったので大人の対応でグッとこらえた。
あたしはビニール袋を真鍋くんに投げつけて立ち上がる。
「言われなくても出ていくっつーの! 気持ち悪いならここに吐いてね! お大事に!」
語彙力の限りを尽くして真鍋くんへの呪詛の言葉を唱えながら、ほとんど飛び出すように真鍋家を出た。今日も学校がある。一度家に帰ってカバンの中身を入れ替えたりシャワーを浴びたりしないといけない。それからゴミ出しも。
これから待っている目の回るような忙しさを考えると、昨日どうしてあのまま帰らなかったのかと悔やまれた。
真鍋くんが熱にうかされて変なことを口走ったように、それを聞いてしまったあたしも、どうかしてしまったのかもしれない。
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