開幕 うわさの三兄弟

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 あやちゃんが隣であたふたしている。心優しい彼女に気まずい思いをさせているのが申し訳なくて、あたしはさっさと話を切り上げるために手をひらひら振ってテキトーに頷いた。 「はいはいわかった。真昼、これでいい?」 「……おう」  真昼を見たら、ヤツはそっぽを向いて不自然なくらいに口元をぎゅっと引き結んでいた。まるでニヤニヤするのをこらえているみたいだ。いったい何がそんなに面白いのだろうか。  真昼は近くの椅子を引き寄せてあたしとあやちゃんの間にしれっと割りこんできた。あやちゃんの肩が硬直する。 「高橋が俺のこと真昼って呼ぶんだから、俺も、旭や夕仁みたいにあだ名で呼んでいいよな?」 「は、あだ名?」 「というわけで、俺、今日から高橋のこと『ピィ子』って呼ぶから」  真昼が笑うとまっすぐに整列した白い歯が光った。女子たちはその笑顔にうっとりしていたが、あたしには、死神が構える鎌のきらめきにしか見えなかった。  あんなに「高橋が家政婦だなんて認めない」と言っていたくせに急にてのひらを返してきて、いったいどういうつもりなのだろう。真昼の意図が読めない。  それに、この前旭さんと夕仁くんから「付き合って」と言われたことへの返事もしなければならない。問題は山積みだった。  その次の出勤日は、あたしにしては珍しく勤労意欲がわかず、半ば足を引きずるようにして真鍋家に向かった。
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