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最初、真昼はおとなしくリビングでストレッチをしていたが、あたしがコロッケを揚げ始め、ぱちぱちという油の音が響くようになるとこちらを振り返った。
「何作ってるんだ?」
「コロッケ」
真昼のアホ毛がクイズ番組の押しボタンのようにピコーンと逆立つ。これ以上ないくらい嫌な予感がする。
真昼がカウンターテーブルを乗り越えてキッチンに乱入してきた。毎回思うがそこを通るのは衛生的によくないからやめてもらえないだろうか。
真昼はたっぷり三十秒かけてハンドソープで手を洗うと、まだ揚げていないコロッケをおもむろに鷲掴みにした。
「ちょっと。それをどうするつもり?」
あたしが固まっていると、真昼は百八十度の油で満ちたフライパンに向かってコロッケを投げ入れた。
油が波打ち、フライパンのへりをこえて溢れる。あたりいったい油まみれだ。いったい誰が掃除をすると思っているのか。投げ入れられたコロッケがばちばちと抗議の声をあげる。
「どうだ、俺だって料理のひとつやふたつくらい……」
「何すんの!」
あたしは二個目のコロッケに手を伸ばそうとする真昼を思いっきり突き飛ばした。その拍子にフライパンに手が触れてしまい、慌てて手を振る。
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