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「あつっ」
「大丈夫か!?」
真昼が水道の蛇口をひねり、あたしの手を掴んで水にさらした。
「大丈夫か、って、元はといえばあんたの奇行のせいでしょ」
真昼を睨んでやろうとして、彼の顔が思っていたより近くにあるのに気づいた。
髪はふわふわでお肌にはシミひとつない。鼻筋なんか飛騨山脈みたいだ。さすが、女子たちが騒ぐだけある。近くで見るとびっくりするくらい整った顔だった。
真昼は後ろからあたしを抱きこむようなかたちであたしの手を冷やしていた。親指で念入りにあたしの指やてのひらをまさぐり、「痛い?」といちいち確認してくる。
「手は、ちょっとでも怪我したらボールの感覚が変わってくるから」
「いや、あたし、ボール触んないし」
右目の下に泣きぼくろがあるんだな。ついでにどうでもいい発見をしてしまう。
「なあ、ピィ子。ひとつ聞いてもいいか?」
耳元で話されると少しくすぐったくて、思わず返事の声が裏返った。
「お、お尋ね料とるよ」
「コロッケって何分揚げるのが適切なんだ?」
あたしは慌てて背後の真昼を押しのけ、フライパンのコロッケを救出にかかった。
「死ぬなコロッケー!」
やっぱりこれも罠だったのね、真鍋真昼。
コロッケの生存を確かめながら、突き飛ばした拍子に足元に転がった真昼の赤いスリッパを睨む。
きっと真昼はあたしに嫌がらせをして辞めさせようとしているのだ。どれもこれも、あたしがあいつにとって「顔を見るだけで胸がムカムカするような女」だからだ。
そんな一個人のくだらない感情に、絶対に屈するものか!
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