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「危ないっ!」
もちろん大声を出しても野菜は立ち止まったりしない。
あたしの忠告も虚しく、買ったばかりのじゃがいもたちは道路のくぼみにそって仲良く車道に飛び出して、向こうからやってきた車に轢かれてあっけなく砕け散ったのだった。
呆然とするあたしをよそに、真昼はじゃがいもを拾うのを諦めて体を起こす。あっけらかんとした声が降ってくる。
「潰す手間がはぶけてよかっただろ」
もう我慢ならない。あたしはキッと真昼を睨んだ。
「あたしが家政婦になるのが気に入らなくても、こういう嫌がらせはしないで」
「俺がいつ嫌がらせしたっていうんだよ」
信じられない。この期に及んでしらばっくれるつもりなのか。
あたしは指を折って真昼の悪行を数えあげる。
「むしろ嫌がらせしかしてないでしょ。いきなり名前で呼べとか強要するし」
「ただ名前で呼んでほしかっただけだろ」
「来たら廊下は水浸しだし、洗濯機破壊するし、料理の邪魔するし」
「掃除を手伝ったんだ。それに、ピィ子にパンツを見られるのが恥ずかしかったから自分で洗濯しようとしただけだし、あのコロッケのおかげで俺がいかに家庭的な男かわかったはずだ」
「あと、じゃがいもばらまいた」
「持ってやるって言ったのにピィ子が離さなかったのが悪い」
「迎えにきた風を装ってるくせに傘も一本しか持ってこなかったじゃない」
「だって、二本あったら、相合傘できない!」
真昼は手に持っていた傘を開いてあたしのほうにさしかけてきた。自分の肩は傘からはみ出て雨に打たれている。それでも真昼は気にした様子もなく、ただじっとあたしのことを見つめている。
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