第1ラウンド VS旭

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 わかったことはほかにもある。  旭さんは将棋のことを考えていると他がおろそかになる。  お煎餅と間違えて飛車をかじっている時はどんなに大事な用件があろうと話しかけないほうがいい。まともな返事はまずない。  真昼は好き嫌いが多い。  どうしても味が苦手なものやアレルギーのあるものなら仕方ないが、彼の場合、「キャベツの芯は味がしない」とか「ナスは見た目が気持ち悪い」といった子供みたいな理由からだ。細かく切り刻んで入れたら気づかなかったので最近はそうしている。  夕仁くんは三人の中では常識的なほうだが、ふとしたときにスイッチが入って一人芝居を始めてしまう癖がある。  そういう時に出くわすと真っ赤になって猛ダッシュで逃げていくので、彼の精神衛生上、夕仁くんの声が聞こえるときはエンカウントしないよう心がけている。  真鍋家はあたしが知る中でも三本の指に入るサイコーの職場だった。  家電は最新式で使いやすいし、セクハラ店長も新人いびりのバイトリーダーもいないし、何よりお給料がいい。  ただひとつ、三兄弟が妙に絡んでくることを除けば。
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