第1ラウンド VS旭

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「第一回ピィちゃんバトル~!」  三兄弟の夕食後にあたしが洗い物をしていると、旭さんがキッチンに入りこんできた。漫才師がステージに登場するときのようなわざとらしい拍手をしている。  なんだかモーレツに嫌な予感がした。 「ピィちゃんに最初に『すごい』って言わせた人が、ピィちゃんと付き合う権利をもらえるバトルでーす」 「人を勝手に景品にしないでください」 「あのね、ピィちゃん。懸賞の景品の松坂牛のことを考えてごらんよ。誰が松阪牛に『あなたのお肉を人にあげてもいいですか?』って許可をとったの?」  確かに一理ある……のか?  首をひねっていると、旭さんがニコニコしながら両手であたしの頬をはさんだ。ふれあい広場のモルモットのようにこねくりまわされる。 「そう、その顔! ピィちゃんはほんと昔飼ってたインコのピィちゃんに似ててかわいいなぁ」  ダメだ、あたし、旭さんのおもちゃにされている。 「旭兄さんに好き勝手させるわけにはいきません」  夕仁くんが旭さんを追ってキッチンに入ってくる。  この旭さんの暴走を止めてくれるかと思いきや、彼の目は蛍光灯の反射だけとは思えないほど爛々と輝いていた。額に「人生経験求ム」と書いてあるのが見えるようだ。当てにならないのは確実だった。  最後に、キッチンカウンターにバンッと手をついたのは真昼だ。 「お前らピィ子の気持ちも考えろよ! ピィ子は俺と両思いなんだからな」  そうは言うものの、一番あたしの気持ちを考えていないのは真昼である。
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