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その日も、四限目終了のチャイムが鳴って昼休みが始まるやいなや、真昼があたしの席にすっ飛んできた。
「ピィ子、ちょっといいか」
「ごめん、あたし、あやちゃんとお弁当食べるから」
そのまま立ち去ろうとすると、真昼はあたしの腕を掴んであやちゃんに声をかけた。
「木下彩花!」
「ぴゃっ」
声をかけられたあやちゃんは、かわいそうに、小動物のようなか細い声をあげて震えている。
「昼休みの間、ピィ子、借りてもいいか?」
「あっあっあのっ真昼くんっ」
「そっか。サンキュ」
あやちゃんはまだ何も言ってないでしょーが!
話を聞かない相手には無視が一番有効だ。
あたしは真昼の手が緩んだ隙に脱兎のごとく教室を飛び出した。真昼が「おい待てっ」と叫んでいるのが聞こえるが、待てと言われて立ち止まるくらいなら最初から逃げたりしない。
「またやってる、真鍋ダッシュ」
リノリウムの床をきゅっきゅと踏みしめ一心不乱に走っていると、追い越しざまに誰かにそう呟かれた。
またやってる、とは失礼な。少なくともあたしは好きでやっているわけじゃない。
あるときは授業中に積んだ一円玉タワー、またあるときは超絶技巧ペン回しであたしにすごいと言わせようとする真昼とヤツから逃げるあたしの追走劇は、学園の人間の間で「真鍋ダッシュ」と呼ばれているらしい。
しかしみんなそうやって噂するだけであいつを止めてはくれない。
真昼はその圧倒的なバレーボールの才能と自己中な性格で、「神様・俺様・真昼様」と腫れもの扱いされているからである。
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