第1ラウンド VS旭

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「んにゃ、ちゃんと正規のルートで借りた」  真昼は短く否定して、スラックスのポケットから錆びついた小さな鍵を取り出した。鍵についたリングに人差し指を通し、くるくると回す。 「生徒会のやつ、屋上の鍵を貸してくれって頼んだら、最初はダメだって言ってた。でも毎日しつこく頼んでたら最終的には快く貸してくれた。気がすむまで持ってていいってさ。あいつ、いいやつだな」  あたしは同じクラスで生徒会所属の気弱そうな男子を思い浮かべた。  神様・俺様・真昼様にいきなり屋上の鍵を貸せと迫られて、びくびくと震えながら『快く』(という言葉の定義は人によるが、真昼にはそう見えたのだろう)貸してくれた光景がありありと目に浮かぶようだ。  真昼がフェンス際まで駆けてゆき、あたしを振り返った。その柔らかいくせっ毛が風にふわふわともてあそばれている。 「見てみろよ」  あたしは言われるがままに真昼の隣に並んだ。  うちの高校は小さな丘の上にあるから、屋上からは灰色の町が一望できた。  学校のまわりに高い建物はなく、二階建ての住宅や小さなビルが立ち並んでいる。町の真ん中を横断するように線路が通っていて、ちょうど電車がやってきて去っていくところだった。  あたしは思わずその景色にまじまじと見入ってしまった。よく知っているはずの町なのに、上から見るとまるでミニチュアの模型みたいだったからだ。
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