第1ラウンド VS旭

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 真昼はフェンスの金網の隙間に指をかけてしばし考えこんでいたが、ふいに顔をあげた。  その目はビー玉のように澄んでいて、斜めから差しこむ太陽の光を反射してきらきらと光っている。 「お前の『好き』は間違ってるって、旭にも言われた。朝顔に一日三回水をやったら枯れたとき。中学で、バレー部の後輩をいじめたやつらをボコボコにしたら後輩に怯えられるようになったとき。それから、インコのピィをかわいがったら死んだときも」  しゃん、かしゃん、金網が鳴る。 「じゃあどうやったら間違いじゃなくなるんだ?」  真昼があたしを見つめてくる。まるで五歳とか六歳くらいの小さな男の子のように、じいっと。  その目はどこまでも無垢で、あたしをとっちめるためにわざとそんな難しい質問をしているわけじゃないことがうかがえた。  でも、だからこそタチが悪い。あたしは答えに詰まって低くうめいた。  偉人の名言でごまかそうと思い、とっさに「恋とは尊くあさましく無残なものなり」という言葉が浮かんだ。バカなあたしがどうしてその言葉を知っているのかといえば……五千円札の人の名言だからだ。  こりゃダメだ。結局のところ、銭ゲバのあたしに恋の説法なんてできるはずがないのだった。
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