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歌うようにそう言って旭さんが一歩迫ってきた。思わず後ずさりすると、背中にキッチンカウンターがぶつかる。後ろはもうダメだ。
左側に逃げようとすると、一瞬早く、旭さんがキッチンカウンターに手をついてあたしの退路をふさいだ。
両手で握りしめたコップの中で水が大きく波打っている。あたしの手がマグニチュード七くらいの勢いで震えているのだ。
「二番目でもいいっておれが言ってるんだから、いいじゃん?」
背中のくぼみを冷や汗が伝っていく。毒をもって毒を制するつもりだったが、前者の毒のほうが圧倒的にヤバかった場合どうすればいいのか、ママは教えてくれなかった。
材料を入れずに稼働したミキサーのように不快な音をたてて脳みそが空回りしている。
でも、何か、何か言わなきゃ。
あたしの顔を掴んでいた旭さんの指が移動する。旭さんの指先の冷たい感触が、耳の下から顎先にかけてつーっと流れていった。
「黙ってるならキスするけど、いいよね?」
旭さんの唇が、近づいてくる――。
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