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旭さんは丸めたその紙くずをゴミ箱に向かって投げる。紙くずはゴミ箱にかすりもせずに、かなり手前で床に落ちた。
旭さんがあたしを見上げ、茶目っ気たっぷりに笑う。
「で、次の設定は?」
あたしは慌ててエプロンのポケットに手を突っ込んだ。しかし指先に触れたのはエプロンの布地だけだ。血の気がひいた。
ない。設定資料のカンニングペーパーが。
慌てて旭さんが先ほど投げた紙くずを拾うと、案の定、あたしの右上がりな字が並んでいた。
「さっき廊下に落ちてて見ちゃった。おれ、三日に一度しか風呂に入らない設定と寝っ屁する設定は許せるけど、切った爪をビンに集めてる設定はちょっときついかなぁ」
「お、おい旭。どういうことだよ」
「ピィちゃんは嫌な女を演じておれたちを幻滅させようとしてたんだ」
あたしはそんな旭さんに詰め寄る。
「じゃあ全部わかっててからかってたんですか!?」
旭さんは余裕たっぷりに足を組み、肯定も否定もせずにただ微笑んだ。
「本命がいるのにセフレをつくろうとするっていう設定のピィちゃん、ぎこちなくてすごくかわいかったね~」
「うぐっ」
あたしはその場にがっくりと膝をついた。
完敗だった。
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